高崎駅の西口から徒歩5分。繁華街を抜け、少し落ち着いたところに「広栄社印刷所」はあります。この印刷所、実は創業約100年の超老舗。今となっては貴重な活版印刷を依頼できる会社なんです。紙やインクのぬくもりを感じられる活版印刷、あなたも一度は目にしたことがあるのではないでしょうか?
活版印刷とは?
活版印刷は、金属活字や樹脂・亜鉛凸版を組み合わせてプレスする、昔ながらの印刷方式です。 色数やデザイン上の制限はありますが、 ほかの印刷方式では出せない独特の仕上がりになるのが魅力。紙の凹凸やインクの滲み具合から、あたたかみやオリジナリティを感じられ、近年再び注目を集めています。活版印刷の中でも、金属活字を組み合わせて版をつくる方法と、データから樹脂版をつくり印刷する方法の2種類があり、広栄社印刷所ではどちらも手掛けることが可能。ハガキや封筒、コースターなど、さまざまなアイテムに活版印刷を施すことができます。
今回は広栄社印刷所に伺い、まずは代表の江原正弘さんにお話を伺います。江原さんの祖父が印刷所を創業してから約100年。まちの印刷屋さんとして、ここ高崎で長い歴史を刻んできました。
「オフセット印刷の機械は、たぶん50年以上経っているんじゃないかな。あとは活版の機械4台と、最近入れたオンデマンドの機械が1台あります」
所狭しと並べられた印刷機には、使い込まれた独特の風合いがあります。必要に応じてメンテナンスや入れ替えを行い、歴史ある活版印刷の技術を守ってきました。
「仕事の依頼は企業だけでなく、個人の方からいただくことも。名刺やハガキ、封筒など、種類はさまざまですね。古くからお付き合いのある方も多いですが、最近は活版印刷ができる印刷所自体が少ないので、調べて訪ねて来てくださる方もいるんですよ。『こんな名刺がつくりたい』とご相談をいただいたり、一度ご一緒したあとに『じゃあほかの印刷物もぜひ』と広がっていくパターンが増えています」
15世紀にドイツで発明され、日本では明治以降活躍してきた活版印刷。今はDTPが主流になって、活版印刷ができる所はかなり減ってきました。そんななかで広栄社印刷所は、現役で活版印刷機をメインに動かし続けている、日本でも珍しい会社のひとつ。
2011年の震災時には、たくさんの活字が棚から落下し、一時は処分も考えたそう。それでも、印刷やデザインに関わる多くの人からエールをもらい、活字を棚に戻すワークショップなどを開催しました。(「ジョウモウ大学」で活字を拾う作業をワークショップ化し、多くの方が参加。復旧させました。リンク先はそのことを詳しく書いたWEBサイト「ゆたり」の記事)
印刷に特化し、専門性を生かしてきたからこそ、長年守られてきた活版印刷の技術。
ほかの印刷会社から「こんな活版印刷をお願いできませんか?」と相談されることもあるというから、広栄社印刷所の歴史と技術が築いてきた、確固たる信頼が伺えます。
独特の凹凸が生み出すぬくもり
再注目を集める活版印刷。その一番の魅力はどこにあるのでしょうか。
「活版印刷は、要はハンコみたいなもの。昔は活字を手作業で、一字一字拾って組み合わせて版をつくっていました。今は、樹脂版を使って画像データをそのまま版にすることが可能になので、活字では表現できなかった、イラストや会社のロゴマークなども印刷することができます。もちろん、活字版と樹脂版を組み合わせて印刷することも可能ですよ」
平らな版を使うオフセット印刷との一番の違いは、印刷するときの圧力を調整できること。以前は凹凸が出ない方が良い活版印刷とされてきましたが、その価値観は時代とともに見直されています。
「強く押したり、優しく押したり。完成イメージに合わせて押す力を調整しています。そうすることで、紙が凹み、特有の風合いが生まれるんです。インクも均一にはならないので、それがちょっとした味になって。手作業から生まれる人間味やあたたかさがあるのが、昔ながらの活版印刷の一番の魅力ですね。できた印刷物を触ってみると、指先で凹凸を感じられて、そこが個人的には好きなポイントだったりします」
独特の風合いを生み出すこと以外にも、活版印刷を生かせる印刷があります。
「どうしても活版印刷じゃないと対応できない印刷物ってあるんですよね。たとえば、ハガキやお年玉袋、名刺など、すでに小さく切られた紙に印刷する場合。オフセット印刷では、ある程度大きな紙でないと機械に通せないので、小さい紙の場合は活版印刷がぴったりです。あとは、紐付き封筒など、すでに特殊な形に加工されているものや、領収書などナンバリングが必要なものも、活版印刷だと印刷できます。サイズは、大きいものだとA3サイズくらいまでなら対応可能。ポスターやカレンダーを活版印刷でつくってみるのも楽しそうですね」
活版印刷をお願いするとしたら?
では実際に、みなさんが「広栄社印刷所に活版印刷をお願いしたい!」となったら、一体どのような工程で活版印刷が行われるのでしょうか。職人の野上圭持さんに、作業工程を見せていただきます。
「活字版だったら、活字を選んで組むところからはじまります。樹脂版は専門の会社に依頼してつくってもらっています。そのあと実際に手作業で印刷が行われ、最後に裁断。丸いコースターの場合は、印刷したあとに丸く抜き加工をして仕上げます。抜き加工の工程は高崎市内の別会社に依頼。これでやっと一つの商品が完成します」
実際に印刷物を依頼するとなったら、気になるのが紙の種類やインクの色。どんなものの取り扱いがあるのでしょうか。
「活版印刷では、凹凸を生かすため厚めの紙を使用するのがおすすめです。よく使うのは『ハーフエア』や『特Aクッション』という銘柄。頻繁に使う紙は在庫を所有しているのですぐに印刷できます」
手作業ならではの、柔軟な対応も広栄社印刷所の魅力。
「在庫を用意しているもののほかにも、活版印刷に向いている紙はたくさんあります。紙色も白だけでなく、黒や紺、グレーなどお客さまによってご希望はさまざま。依頼に応じて取り寄せて対応することが可能です」
紙の色に応じて、印刷するインクの色も選ぶことができます。
「一般的な色のインクのほか、白、蛍光色やメタリック系の色も選べます。暗い色の紙に印刷する場合は、シルバーのインクで刷ることが多いですね。白いインクも試しましたが、インクのノリがいまいちで。見た目はそこまで変わらないですが、シルバーの方が綺麗に仕上がるので、お客さまにはシルバーをおすすめしています」
基本的には色数の分だけ版をつくることになるので、使う色は1〜2色に抑えるのがベター。写真のように、版は変えずにインクの色を変える「色違い」の展開も可能。
白い紙に蛍光ピンクで刷ってもよし、紺色の紙にシルバーで刷ってもよし。限られた色数だからこそ、どんな組み合わせにしようか考えるのが楽しいし、工夫次第で表現の幅は無限大です。
広栄社印刷所のオリジナル商品は、高崎駅内のお土産屋さん「群馬いろは」や、高崎OPA1階の「高崎じまん」でも取り扱いがあります。ぐんまちゃんとコラボした商品や、高崎だるまをモチーフにしたものなどバリエーション豊か。活版印刷を生かした、繊細さと味のある仕上がりが魅力です。
オリジナルの印刷物をつくりたい。単純な印刷ではなく、遊び心やあたたかみある印刷をしたい。そう考えている方は、ぜひまちの印刷屋さん、広栄社印刷所に相談してみてはいかがでしょうか。
広栄社印刷所
〒370-0831 群馬県高崎市あら町7-5