おいしさ膨らむ組み合わせを追い求めるBENTO261のキンパ

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武井仁美 まちの編集社(株式会社まちごと屋)

Photo by市根井

インタビュー

新前橋駅前ロータリーでお店を営むBENTO261(ベントーニイロクイチ)は、韓国風海苔巻き「キンパ」を中心に提供するお店です。店主の金伽倻(きん・かや)さんが生み出す​​独創的な食材の組み合わせは、従来のキンパの概念を超越したおいしさで食通の舌をも唸らせます。今までオリジナリティあふれる20種類以上のキンパメニューを生み、巻き続けてきた、伽倻さんのクリエイティブなキンパ作りについてお話を伺いました。

photo by 金伽倻

BENTO261のキンパやお弁当の魅力の一つは、食べ慣れたありふれた野菜たちも「こんなにおいしかったんだ!」とごちそうになる魅力を再発見できるところです。​​

北海道・釧路出身の伽倻さんは、お母様の実家が十勝の大きな農家だったので、子どもの頃からたくさんのお野菜が身近にありました。結婚を機に群馬へ来て、群馬のお野菜の印象はどうだったんでしょうか?

「まず畑の狭さにびっくりしたんですよ!地平線が見えるような十勝の広い畑を見て育っていたので、お墓の横とかにちょっとした畑があって里芋が植わっている光景を見た時は、ここで作ってるの?!と衝撃でした(笑)。里芋は十勝であまり見かけないので、土地柄が出るお野菜との出会いは楽しかったですね。あと群馬は本当にあちこちに直売所があって、色々な生産者さんのお野菜を直接手に取れるから、それはすごくいいところですよね。」

料理上手が評判を呼び、お弁当店を開業

野菜ソムリエの資格も持つ伽倻さんは、JAの企画などで季節の野菜を使ったレシピ開発などに携わっていました。ある時、子どものお弁当作りをきっかけに、いろいろ詰め込む「お弁当」という形にハマり、ブログやSNSに作ったお弁当を載せはじめると大きな反響がありました。

お弁当を作って欲しい、と反響や依頼が寄せられますが、事業として受注することは自宅のキッチンではできない…。期待に応えられる厨房を探していたところ、高崎市で(株)まちごと屋が運営していたコミュニティスペース・MOTOKONYAのシェアキッチンを紹介され、2016年5月から週に2回のお弁当屋さんとして「BENTO261」をスタートさせました。緊張で迎えた初日の一番最初に買ってくれたお客さんのこと、1年間欠かさず来てくれた常連さんが最終日だけ買えなくて悲しんでいたことなど、思い出がたくさんあるそうです。

目にも美しく、何よりおいしいお弁当が評判となる中で、「キンパの日」と銘打ちキンパ弁当を出してみると、「すし飯じゃない海苔巻きがおいしくて新感覚!」との好評の声に、キンパの可能性を感じ始めます。

「お好みハーフ弁当」は好きなキンパのハーフサイズに
プラス324円で数種のおかずがつくお弁当にしてくれる

もともと屋台料理や軽食として広く食されてきたキンパ。比較的小ぶりでカジュアルな食べ物というのが一般的なイメージかもしれません。伽倻さんも同じように作ってみたこともありましたが、どうも気持ちが盛り上がらない。自分の心に従って作るうちに、キンパという日常の食べ物をもっとクリエイティブにした、多彩で太めなキンパの姿に自然となっていったそうです。

「最初のころは、キンパの可能性を追求する、世の中にまだない組み合わせを生み出す、ってところまではできてなくて。思い出すと恥ずかしくなっちゃうんですよ。」

MOTOKONYAシェアキッチンの後、土屋文明記念文学館内のミュージアムレストランでの出店を経て、2018年12月に新前橋駅のロータリーに現在のお店を構えました。

独創的なキンパを生み出す秘訣とは

キンパの可能性についてさらなる研究と試作を重ね、オリジナリティあふれるメニューがつぎつぎと誕生していきます。メニューを生み出す時に大切にしているのはどんな考え方なんでしょうか?

一番人気は「エビ&パクチー」
パクチーが苦手な人も食べてしまうという逸品

「口中調味のように多彩な具とごはんが口の中で混ぜこぜになって、噛むごとに調和して味が広がり膨らむような組み合わせを追求しています。常に新しい組み合わせを探してるので、夢にも出てきちゃうんですよ(笑)。ある時、ひじきを使ったキンパを作ろう、和食の朝ごはんみたいな組み合わせがいいな、というところまでは決まってずっと考えていたんです。すると、色々な具をピビンバみたいにご飯と混ぜて食べてる夢を見たんですよ。夢ではそこにカリカリ梅が入ってて、これすごい美味しい!って驚いたらパッと目が覚めて。その時の組み合わせと感動を忘れないようにすぐ書き留めました。」

そうして生まれたキンパが「味玉カリカリ梅ひじき」。「ツナレモン」も同様にして生まれた“夢のレシピ”シリーズなのだそう。

上:味玉かりかり梅ひじき 下:ツナレモン
photo by 金伽倻

夢にまで出てくるほど考え抜いてから世に出る261のキンパなので、誕生秘話もバラエティ豊か。特に生みの苦しみがあった「さばペッパー」のキンパの話も興味深いです。

「サバをキムチで煮る韓国料理があっておいしいんですよ。そこから着想して、焼サバと酸味と辛さの組み合わせを色々考えて。韓国風にするのか、和風にするのか、はたまた違う味か。どうやってキンパにしようか、試作しては食べてを何度も何度もやってみて。構想してからメニューとして出せるまで一番時間がかかりましたね。それで辿り着いたのは、タバスコと甘酸っぱい玉ねぎと塩漬けのブラックペッパーを合わせた、南米料理のセビーチェ*のようなラテンなキンパでした。」

*柑橘の酸味と唐辛子の辛味が爽やかなペルー発祥の魚介のマリネ

どんなきっかけで良い取り合わせに出会うかわからないと、ジャンルを超えた様々な料理に好奇心のアンテナを広げている伽倻さん。ピータンを巻いたアジアンエスニックなキンパ、特製イカ墨ペーストでパエリアのように炊いた真っ黒なご飯のキンパなど、他にはないメニューを次々生み出してきました。ただ奇をてらうわけではなく、実現するまでには、おいしさが膨らむ組み合わせを追求する地道な試作を繰り返しています。

プレート盛りで華やかに 中央がさばペッパー
photo by 金伽倻

「ボリュームや食感、組み合わせの妙など、どれか一つでも足りなかったら『261のキンパ』としては世に出せないんですよ。あともうひと味が決まらなくて、みんなでずーっと考えてることもあります。急に閃いちゃったスタッフの叫びが厨房内にこだましてビックリしたことも(笑)。」

メニュー表に載っている18種類に加え、季節ものなどの限定キンパも多数。まだまだアイデアは尽きないそうで、新しいキンパの登場も楽しみです。

実際にキンパを巻いている様子も見させてもらいました。

多彩な野菜の組み合わせ「ベジキンパ」
動物性食材不使用

「韓国のキンパはぎゅぎゅっとしっかり巻くことが多いんですけど、日本では、海苔巻きもお寿司もおにぎりも、ふわっと握って口の中でほろっとほどけるような食感が好まれますよね。
色々試しましたが、日本のおいしい食感にあわせるのがいいねって結論になりました。」

一瞬の達人技で、ほとんど力をかけずくるりとまとめる
空気を巻いているような感覚だそう

出来上がったベジキンパを頬張ると、バルサミコごぼうのコクと旨みが十分にメインの風格。紫玉ねぎがソースのような役割で全体をまとめ、噛むたびに野菜たちの食感と香りが次々と押し寄せます。ごはんとの相性も言わずもがな。

思わず「紫玉ねぎ、いい仕事してる…!」と唸ってしまいました。メインを引き立てたり、全体をまとめたり、アクセントになったりと、261のキンパに欠かせない名脇役の野菜たちのおいしさを存分に味わいました。

「私がキンパを巻くのではなくて、キンパの方から勝手に私に巻かれにくるんです(笑)。」
あながち嘘ではない華麗な手さばきだった

おいしさを追い求める一途さと、遊び心やユーモアが絶妙に調和する伽倻さんの人柄も多くのファンを惹きつけるところです。

「一度ハマると突き抜けてしまう性格なんですよ。トレーニングジムに通ったらボディビル大会に出る勢いで鍛えちゃうし、日本酒の魅力に目覚めた時はそのおいしさを科学的に理解したくて利き酒師の資格も取りました。好きなものは理論も深掘りしたい質なんだと思います。」

酒場261と個性豊かな店が集まる新前橋

昼はキンパが並ぶBENTO261ですが、夜は食とお酒を愛する人たちが集う場所「酒場261」へと変わります。日本酒をはじめとしたお酒と特製のおつまみが堪能できる夜の酒場営業では、昼とはまた違うたくさんの人に出会えて面白いのだそうです。

店内は縁のあるものづくりの人々の作品や
古道具などが調和する素敵な空間

新前橋駅周辺は、BENTO261はじめ個人経営のユニークなお店が駅のロータリー周辺にぎゅっと集まっています。駅前の酒屋・高橋与商店で群馬の地酒を買うとお手頃の持ち込み料で周辺のお店で飲めるシステムがあったり、261の隣のトレーラーハウスのウイスキーバーではフード持ち込み自由だったりと、自然と店同士が繋がりロータリー界隈全体をエリアとして楽しんでもらえる気風ができているようです。

3路線の電車が乗り入れる新前橋駅は、途中下車とハシゴ酒を存分に楽しめる絶好の環境のようで、「新前橋駅に降り立っても、魔物(=魅力的なお店たち)に捕まってロータリーの外に出られないんだよ。」と言う都市伝説も、新前橋を愛する人々の間でまことしやかに囁かれています。

261の窓から見える駅とロータリー
毎年賑わうロータリー祭では
新前橋の魅力的なお店たちが広場に一堂に会する

伽倻さんも、お店を出す前からこのエリアで楽しんでいた一人。知り合いの店主たちに「私、ここにお店を出すことにしたんだ。」と照れ笑いで報告したそうです。

「大丈夫なの?ってくらい電車ギリギリまで飲んでいる
愛すべき酔っ払いたちが来てくれますよ(笑)。」

新前橋でスタートして6年目のBENTO261。コロナをきっかけに導入した冷凍設備で、冷凍キンパの製造も始めています。

すでに市場には色々な冷凍キンパは出回っていましたが、キンパという料理の特性から解凍後においしさを保つのが難しく、BENTO261では長らく二の足を踏んでいました。急速冷凍機のメーカーを何軒も回る中で、キンパと相性がよく納得のいくおいしさを作れるものに巡り会えたことで、261の冷凍キンパ製造が実現しました。今後はオンラインショップを開設して、さらに食べてもらえる人の裾野を広げたいそうです。

「これまで出してきたメニューもだいぶ蓄積されてきたので、本なのか何なのかわからないけど、いずれかの形でまとめたいなと思っています。どのメニューも私なりの軸があって作ってきた組み合わせのコツがあるので、それをまとめて伝えられたらいいですね。」

今以上に忙しくなりますね、と問いかけると「忙しい方がいいですよ〜!暇よりも辛いことはないから。」と伽倻さんは明るく笑い飛ばしました。

BENTO261
住所:群馬県前橋市新前橋町18-44
TEL:027-254-0261
営業時間:11:00 – 15:00
※酒場営業は 火 – 土の19:00から
定休日:日曜 (臨時休業あり)
tsuruichi.jp

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