JR高崎線、新町駅から車で約10分。神流川(かんながわ)の西側、群馬と埼玉の県境にもほど近い場所に「あぜがみシール印刷」はあります。お客さまのお困りごとを起点に、シールやラベルをつくり続けてきた、2025年で創業50年を迎える老舗の会社です。
商品名やブランド名のロゴシール、可愛い柄の入ったクラフトテープ、食品の成分表示シールに、バーコードやロット番号が書かれたラベルなど。今まで手掛けた実績を見せてもらうと「これ見たことある!」「ここでつくられてたのか」と思わず興奮するものばかり。
地方の小さな会社ながらいくつもの特許を取得し、着実に成長を続けてきた秘訣はどこにあるのでしょうか。
創業者の畔上(あぜがみ)賢治さんと、2代目代表の畔上誠一さんにお話を伺いました。
困りごとを解決したい、思いを技術に変えて
賢治さん:「創業したのは28歳のときでした。それまではシール印刷機をつくっている会社で働いていて。いつか独立して社長になりたい、と考えていたんです。今あぜがみシール印刷がある場所は、もともと梨畑だった場所。売りに出たタイミングで思い切って購入しました」
最初は小さなプレハブからスタート。とにかく目の前の依頼に向き合い続けていたら、仕事は順調に増えていきました。
賢治さん:「ご近所だった高崎ハムさんの仕事を中心に、たくさんの方にお世話になりましたよ。土地が手狭になってきたので、拡張工事もして。仕事は楽しいし大好きだったのですが、気付けばオーバーワークに。朝の5時から23時まで働いて、過労で爪が薄くなってしまったんです」
誠一さん:「当時私は建築関係の仕事をしていました。父から『いつか戻る気があるなら、今帰ってきて欲しい』と連絡をもらい、ここで働き始めたのが25歳のときですね。10年ほどしてから代表を引き継ぎ、今は父考案の特許を活用したシール印刷など、新しいことにもチャレンジしています」
賢治さん:「私自身、会社を創業したのが28歳。代替わりするにも、息子が若いうちの方が何かといいだろうなと考えていました。周りには『まだ早いんじゃない?』とたくさん言われましたが、やる気も体力もあるうちに、どうにか頑張ってくれよと。結果として、若いぶん発想も柔軟ですし、継いでもらってよかったなと思っています」
賢治さんは代表の座を譲ったのち、現場で培った技術を生かして、いくつもの特許を取得しました。
賢治さん:「いま手掛けているもので9個目の特許取得になります。パソコンは苦手なので、出願書類は誠一のお嫁さん(経理部の畔上加代子さん)に揃えてもらって。昔から県の創意工夫展に出展して入賞したこともあったり、アイデアをかたちにするのが好きでしたね」
最初に考案したのは、公衆トイレのレバー補助具。当時3歳だったお孫さんが、硬いレバーに苦戦している姿を目にしたのがきっかけでした。
賢治さん:「困りごとを解消したい、という気持ちが第一です。人によっていろいろな解決方法があると思いますが、私はいつもアイデアで乗り越えてきました。特許を取得するようになった原点は、学歴がないことに負い目を感じていたから。何か認めてもらいたい、という思いがあるんですよね。仕事が終わったあと、夜中の1時くらいからアイデアを考えて、わくわく想像しながら寝て、起きてからつくってみる、という生活をずっと続けてきました。こういうものがあったらいいな、もっとこうするべきだな、とあれこれ考えて。図面を何度も書いては書き直しを繰り返して、かたちにしていくんです」
賢治さんが考案し、特許を取得した「ららカット」は最近依頼が増えている封印シール。少しの力を入れるだけで簡単にスパッと開封でき、お年寄りや子どもにも扱いやすい。それでいて、輸送時など不用意な力が加わっても開封されないのが、この技術のすごいところ。「未開封で安全である証」として大手菓子メーカーの商品の箱や、医薬品の箱にも採用されています。
あぜがみシール印刷で取り扱う製品のなかには、厳しい基準が設けられたものも数多くあります。
誠一さん:「これは欠落に関して厳しい基準があるシール。100万枚ほど印刷するなかで、たったの一枚も剥がれてはいけない、というものなんです。ここでは画像検査装置を使用することで、元のデータと合致しているかを照合し、印刷ミスや欠落がないことを出荷前に確認しています」
誠一さん:「以前、人の目で見ても気付けないような細かな英語のスペルミスで、10万枚のシール印刷が無駄になったことがあって。それが本当にショックだったので、検査装置の導入に踏み切りました」
精度の高さが評判になり、リピート注文につながっているそう。ここまで検査装置が充実しているシール工場もめずらしいため、基準の厳しい工業製品を扱う企業からの新規依頼も増えています。
また、最近力を入れ始めているのが、小ロットから依頼できるオリジナルクラフトテープ。あぜがみシール印刷が独自の制作方法を考案し、今まで大量注文が必須だったテープ印刷に新たな選択肢を増やしました。
誠一さん:お客さまから『なんとか小ロットでオリジナルテープを頼めないか』とご相談をいただいたことが開発のきっかけです。一般的には、300巻や500巻からという大量注文が必要ですが、うちでは50巻から制作が可能。梱包用のテープとして貼るだけでもいいアクセントになりますし、さまざまな印刷にも対応できます。発表以来多くの反響をいただいている製品ですね」
シール印刷を頼むには?
それでは、自分でもシールをつくってみたいと思ったとき、どうしたら良いのでしょうか?
誠一さん:「まずはどんなものをつくりたいのか、相談していただければと思います。仕様によってピンキリですが、値段としてはだいたい1万円くらいから、100枚から注文可能です。原稿は、たとえばお子さまが描いたような手描きのものでも、Illustratorのデータでも大丈夫ですよ」
価格やロットもさることながら、直接相談しながら進められるところが、ネットプリントとの大きな違い。初心者の方にも心強いですし、思ったよりも手軽に頼めそうです!
シンプルな四角や丸のシールから、キャラの形にくり抜いたシール、キラキラや透明、テープ状まで。どんなシールにしようか迷ってしまいます。
誠一さん:「くり抜いた形状にする場合は、約1万種類の刃型があるので、それを使うこともできますし、1から制作するとなると、最低1万円から型代がかかります。あとは、用紙の種類や厚みをはじめ、粘着の強さ、印刷方法、インクの色数、余分なところは残ったままでいいのか、台紙までカットするのかなど。つくりたいものに合わせて、無限の選択肢が広がっているんですよ。図柄に応じて印刷方法と版の種類が少し変わるので、その辺りはデザイナーの茂木が見極めてくれます」
あぜがみシール印刷では、樹脂版を使い印刷する「凸版印刷」という方法と、デジタルデータからそのまま印刷する「インクジェットプリント」という方法の2種類を採用しています。
茂木さん:「『凸版印刷』の場合は、3種類の硬さの版を使い分けています。図柄の細かさや、使うインク、用紙の材質との相性を見ながら、どれを使うか決めています。『インクジェットプリント』の場合は、版は不要。家庭用プリンターと同じようなイメージで、一回一回インクを吹き付けながら印刷します」
誠一さん:「用紙と版の相性もさまざまで、試行錯誤の連続です。シャープに細い線を出したいときは、印圧に負けないような硬い紙の方がよかったり。これでいけるかな、と思っても予想外の問題が起こったり。最初のうちは失敗することもありましたが、そこでノウハウを積み重ねて。今ではお客さまのデザインや要望に応じて『このデザインを生かすなら、この用紙と版の組み合わせがおすすめです』と具体的にご提案できるようになりました」
誠一さん:「凸版印刷の場合は、一色ずつ版をつくる必要があるので、色数が増えれば値段も上がります。インクの色は、基本的なものから、金や銀、白、蛍光色など、さまざまに対応可能です。『あぜがみオレンジ』など、オリジナルカラーをブレンドすることもできますよ。インクジェットの場合は、プリンターのヘッドから吹き付けていくので、単色はもちろん、色数が多い図柄や、グラデーションの表現も得意。小ロットなら、凸版に向いている図柄でも、インクジェットにした方が安く仕上がる場合もあります」
お客さまの困りごとに長年寄り添ってきたあぜがみシール印刷。取材を通して、確かな技術力と柔軟なチャレンジ精神に触れることができました。
たとえば「うちの商品用に、しっかり貼れるけど剥がしやすいラベルシールがほしい」「特殊な用紙でパッケージシールをつくりたいけど、どうしたらいいんだろう?」など。シールに関して困ったときは、ぜひ一度問い合わせてみることをおすすめします。
有限会社あぜがみシール印刷
〒375-0012 群馬県藤岡市下戸塚209-2