上野村で独立し、現在は富岡市で木製家具やキッチンツールを製作している「HOKUTO59」。バス釣りの「ルアー」を自作したことから始まったものづくり、そして「違和感がなくなったら完成」というデザインの仕上げ方について。
HOKUTO59は、木工品を製作している富岡市の工場です。関根北斗さん・サチコさんご夫婦によって営まれ、キッチンツールや家具を中心とした木製プロダクトを手掛けています。限られた卸先にのみ納品される上質なアイテムには、触れるほど手に馴染む心地よさがあります。
今回はその仕事場で、デザイナーである関根北斗さんにお話を伺いました。木工を始めたきっかけ、プロダクトの着想、そしてこれからのこと。
関根北斗(せきね ほくと)さん
埼玉県出身。上野村森林組合での木工製作を経て、上野村で妻のサチコさんとともにHOKUTO59として独立。現在は富岡市の自宅兼工房で活動中。
美しく便利な木製キッチンツールの作り方
継ぎ目がなく、なめらかな曲線を描く木製トングとカップ。「mogu」(=木具)と称したシリーズで、機能性とデザイン性をあわせ持つ。トング「FLAMENCO」は分解して隅々まで洗うことができるのも特徴。
──思わずうっとりしてしまうアイテムです。デザインや造形について、どこかで学んだご経験があるのでしょうか?
北斗さん 実は、デザインや美術の勉強をしたことはないんです。私は漢字が苦手なので読書もほとんどせず、たまにフォトブックを見るくらいで。使い心地や置かれた姿を想像していると頭の中で形が出来上がってくるので、それを紙に描いて簡単な設計図とすることが多いですね。
──どんな瞬間に着想することが多いですか。
北斗さん タイミングが決まっているわけではなく、日常生活の中で触れて「おっ」と感じた物体を頭の引き出しの中に入れておいて、その記憶を混ぜ込んでいるのだと思います。たとえば、「カップの持ち手の形」が浮かんだ裏に「トイレのドアノブ」があるとか。
──moguカップには複数の形がありますが、これは全て異なるのでしょうか。
北斗さん 最初は「同じ形がひとつもない一品物」がテーマだったので数百種類あったのですが、現在はその中から面白いと思ったもの、持ちやすいと思ったものを定番化して作っています。
──それは、型取りなどをして?
北斗さん いえ……大まかな形は木材に描くのですが、細かいカーブなどは手が覚えているのでラインナップ通りの形になるんです。
──まさに職人ですね。木材となる木はどんなものを使っていますか?
北斗さん moguカップはすべて群馬県産の桜や欅などを使っています。群馬県は木材に適した木が多いので。特に、以前暮らしていた上野村の木材は上質なんですよ。
「ルアー作り」に魅了された少年が、富岡市に移り住むまで
──独立される前は、上野村の森林組合で働いていらっしゃったとのこと。そちらではどんな仕事をしていたのでしょうか?
北斗さん 家具部門というところで、道の駅から発注された昔ながらの小引き出しやお盆などを作っていました。その時に出会った江戸指物の職人さんからカンナやノミの使い方を学びましたが、今の仕事にも活きていますね。楽しく働いていました。
──独立を考えるようになったのは、いつごろですか。
北斗さん 就職してすぐに考えていました。でも、独立の内容は家具ではなく「ルアー」の製作で(笑)。
──釣りで使う疑似餌の。
北斗さん そうです。小学生のころから釣りが好きで、よくトップウォーター・バスフィッシング(水面に浮かぶルアーを使ったバス釣り)をして遊んでいました。自分が木工を始めたのも、そのルアーを自作したのが原点というか。
北斗さん もともと大学卒業後には釣り用具メーカーに就職しようとしていたんです。しかしちょうど外来種被害防止法が施行されたころで、バス釣りが難しくなってしまいまして。釣り業界全体として右肩下がりになったころだったので、どうしようかなと……
※外来種被害防止法…バスを含む特定の外来種が生態系に被害をもたらすことを防ぐための法律。都道府県によってはバスの「キャッチ&リリース」を禁止しているところもある(つまりキャッチ&キル)。
北斗さん ただ、第一希望だったメーカーが家具屋出身であることを知り、「木がいじれるようになればルアーの加工もできるようになるのでは」と考えて森林組合に入ったというわけです。
北斗さん とはいえ上野村で独立した時点では「仕事が安定したらルアーを作ろう」くらいに考えていて、まずは小物づくりから始めました。これから大きい家具を作るとなると、端材がたくさん出ます。通常ほとんどは捨てられてしまうのですが、その利用先を決めておけば無駄がないなと。
──綿密なプランニングですね。ところで、木材の質が良いことのほかに、上野村で独立した理由はありますか。
北斗さん 正直なところ、他の場所で独立する自信がなかったんです。その点、上野村は個人で木工をやっている方が多く、「上野村クラフトフェア」等の発表の場があることも分かっていたので。
──そこから、現在は富岡市へ拠点を移されました。そのきっかけは?
北斗さん 平成26年に、日本全国で大雪が降った日がありましたよね。上野村では約6年間活動していたのですが、当時は自宅と工場との距離が1キロメートルあり、あまりの積雪に2週間ほど仕事場に辿り着けない期間ができてしまったんです。
北斗さん そんなこともあり、引っ越しを考えているんですと「おかって市場」の高橋さんに相談したんです。そうしたら「いい場所あるよ!」と今の場所を紹介されて。工房はもともと繭の倉庫だったらしく、理想の場所・空間だったのですぐに決めました。
──そういえば、HOKUTO59のアイテムは「おかって市場」にも卸していますよね。高橋さんとはどこで出会ったのでしょうか?
北斗さん 上野村で開業してすぐ、ですね。「上野村クラフトフェア」へ初めて出店したときに声をかけてくださったんです。当時、そのイベントを主催している上野村木工家協会の同業者が「ちゃんとしたものを作っていれば、どこかから声がかかるよ」と言っていたのですが、本当に声がかかるとは……と大喜びしたことを覚えています。
違和感がなくなって、「自然」になったら完成。
──現在は、キッチンツールをメインに製作されていますね。
北斗さん はい。スツール等の家具は注文が入り次第の製作で、継続して作り続けているのは料理や食事に使うプロダクトです。マグカップを始め、鍋敷き、カッティングボード、木べらなどですね。学生時代に居酒屋でアルバイトをしていて、「こんなものがあったらいいな」と思っていたものを作ってみたのが始まりです。
──サチコさんの意見もデザインの参考にしていると伺いました。
北斗さん 妻は料理が好きなので、実際に使ってもらいながらアドバイスをもらってバージョンアップしています。また、それで言えば、お客さんの言葉で気づいたこともあって。
北斗さん 自分たちは「調理道具」として製作していたつもりなのですが、お客さんは「台所だけで使うにはもったいない」と。つまり「食卓に置きたい」という需要があることに気づいたんです。
──確かに、左右の木目までキッチリ揃っていますものね。その気持ちは分かります。
北斗さん そうなると、調理工程で使われることを想定して作ったトングは、テーブルでの料理の取り分けに使うには少し大きい。そのようなことを加味して、ひとまわり小さいものを作りました。
──ところで、プロダクトはどこまで突き詰めたら「完成」なのでしょう? デザインするのも、GOを出すのもご自身になりますよね。
北斗さん うーん……違和感がなくなったら、ですかね?
──違和感。
北斗さん たとえばmoguカップは取っ手の部分に穴を空けるわけですが、その穴は、どんな角度から見ても綺麗に見える形にしています。また、トングの木目が合致しているのは一枚の板を薄切りにしているからなのですが、仮に別の部分から切り出すと露骨に作業工程が意識されてしまうのかなと思いまして。だから、「どんどん格好良くしていく」というよりも「自然になったら完成」みたいなイメージでしょうか。
──そのこだわりは、もはや「作品」に近い気がします。
北斗さん 自分としては、「木工作家」と「工場での大量生産」の間、つまり「作品」と「製品」の間くらいを目指しています。使ってもらうことが何よりなので、全て手仕事だと理想の数に追いつかなくて。機械と手作業を組み合わせて、質と量を両方とも大切にできるようにしています。
──製作の中で、もっとも大事にしている想いを伺いたいです。
北斗さん ずっと、人に選ばれ続けるものを作りたいです。物理的に頑丈な家具を作れば残りはするかもしれないけど、必ずしも選ばれるわけではありません。極力、何も飾らずに、自然と暮らしに溶け込むようなプロダクトを製作していくつもりです。
──具体的に、次に新しく作りたいものは決まっていますか?
北斗さん ソファを作ろうかなと思っています。ダイニングの椅子ができて、スツールができたので、次はソファかな、と。あとは……自分と友人だけが使うガレージブランド的な展開で、いつかルアーも作りたいですね(笑)。
HOKUTO59 Information
・HOKUTO59 WEBサイト
・家具の製作工程が見られる動画がYouTubeチャンネルで公開されています。