「何もない」と言われた街で10年、人・物・食の関係性が生まれるスーパー「おかって市場」の歩みとこれから

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片山昇平 ライター / 編集 / プランナー

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インタビュー

高崎から車で30分、軽井沢まで一時間もかからない場所にある富岡市。そんな二つの商業エリアの挟まれる様に位置するこの場所は、いつしか「何もない」と言われる様になった。今、富岡には世界遺産目当てでなくとも、県内外から多くの人が定期的に訪れている。(一体、何をしに?)その中心は、おかって市場がつくってきた“豊かな日常”に答えがあった。今回は、「何もない」と言われた富岡で10年間 街のスーパーであり、コミュニティを育んできた「おかって市場」の創業者 高橋喜美さんにお話を伺いました。

「おかって市場」とは?

大正期に建てられた「繭の乾燥場」を改修して、富岡市の中心市街地の活性化、生活基盤の整備、地産地消の推進を主な目的で企画された店舗です。市内を中心に近隣農家が80軒ほど登録しており、その農家さんがつくった地場の新鮮な野菜が常時10~15種ほど並ぶ他、お肉、お魚、県内外から厳選して集めた調味料や加工品なども揃った街のスーパー。

それ以外にも、施設全体を利用して開かれるマーケット「動楽市」や、「月一マルシェ」「春のパンまつり」といったイベントも定期的に開催しており、地域内の交流と県内外から沢山の人が富岡に足を運ぶきっかけを、駅前から提供し続けている。

■住所:〒370-2316 富岡市富岡1450
(※富岡市役所の前。上信電鉄 上州富岡駅から3分)
■営業時間:9:00~19:00(日曜日は17:00閉店)
■年中無休:1月1日~3日はお休み

「おかって市場」のはじまり

—— そもそも、何故この場所で始めようと思ったんですか?

現在の富岡には製糸場とか色々あるけれど、そこに焦点が当たる前の富岡って、動きのない“静かな街”だったんですよ。

おかって市場のある駅前の、この場所も元々は使われていない繭の乾燥場と空き蔵が並ぶだけで、ちょっと暗い空気が淀んでいてね(笑)

丁度同じ様なタイミングで、中心市街地にあったスーパーが外に出ていって、周辺に住むお年寄りが買い物をするのに不便な環境になっちゃって。

それと、当時は世界遺産に指定される前だから(富岡に)観光客はそんなにいなかったんだけど、塀越しに奥のレンガ造りの倉庫を写真に撮る人は当時からチラホラいて、(この場所を開けられたら中に入っていけるのにな・・)って考えたのが最初のきっかけかな。

でもこの場所自体、個人の持ち物だったのもあって、最初は全部を借りることが出来なかったんだけど、(手前だけでも借りれれば、敷地は全部開けられるな)と思って、この場所でやろうって。

それで、その話を仲間にしたら、皆んな「いいね!いいね!」「やろう!やろう!」と言ってくれたので、
『×××円位、お金がかかるんだけど』って話をしたら、皆んなサーッと引いていったの。

—— 一同:(笑)

結局、潤沢に資金があるわけでもなかったし、自分以外誰もやり手がいなくなっちゃったから、当時は別の会社に勤めていたウチのカミさんにやらせたんだよ(笑)

—— そこから、どんな場所にしたいと思って、おかって市場を作り始めたんですか?

「おかって市場」が果たす目的は三つあって、
① 中心市街地の活性化
② 生活基盤の整備
③ 地産地消の推進
この三つをテーマに考えていったんです。

一つ目の“中心市街地の活性化”は、さっきも言ったように街が全然活気付いていなかったし、ここに何か一つ出来れば、ちょっと(街が)動くかなと思ったんです。まずは、その起点となる役割を果たせる場所を作ろうって考えました。

二つ目の“生活基盤の整備”は、周辺地域に住むお年寄りたちが、歩いて来られる場所としての整備。

そして最後は、農家も多い地域柄、中小規模でやっている農家の販路支援と地域でつくったものをちゃんと地域で消費出来る“地産地消の推進”。

この三本を柱に、おかって市場を企画したんです。

—— 立ち上げ当初、富岡での反応はどうだったんですか?

初めは「市場」なんて付くもんだから、お年寄りには業者専用の場所だと思われちゃったり(笑)決して安いものだけを揃えているわけでもないから一回来て、それ以降来ない人も多かったりと、お客さんの反応は大分ハッキリしてたと思います。

それでも、一度来てくれて、何か感じて貰えるモノがあったお客さんが少しずつ増えていきました。

—— そこから10年経って、街の反応はどう変わりましたか?

普段の営業やイベントをしながら、少しずつだけど(おもしろいことをやっている場所なんだな)という認知をされているとは感じています。少しずつだけど、お店のファンが増えたり、月一マルシェを楽しみにしてくれる人が何人もいたり、と。

こないだも(お店に)来てくれた人と色々話をしていたんだけど、「今まで特に楽しみがなかったけど、毎月イベントがあって、そこでお菓子を買ったり、野菜を買ったりすることが楽しみになった」って言ってくれたお客さんもいてね。

そういう人たちが出てきてくれて、割と嬉しい感じですよね。

—— 「おかって市場」という名前には、どんな意味を込めたんですか?

最初は、食品だけじゃなくて、その周辺にある食器やカトラリー・調理器具といった商品も並べようと思ったり、キッチンをつくって料理教室もやっていきたいな、と思って、それを包括的に意味する分かりやすい名前にしようと思って、「おかって市場」と付けたんです。

—— 市場で大事にしていきたいのは、やはり「地域にいる人」なのでしょうか?

いやあ・・(市外の人も含めた)両方かな。

今、新しい店舗オープンに向けて、目の前の倉庫を改装しているんだけど、そこではオープンキッチンを設営したりして、料理が得意な人が空いている日にランチを提供出来たりするオープンカフェをやったり、自分たちだけじゃなくて色んな人を絡めながら、一つの場所をつくっていこうと考えているんですよ。

おかって市場を象徴する数多くのイベントは「富岡に行っても、つまんない」の一言から始まる。

—— おかって市場を象徴する一つとして、“動楽市”や“マルシェ”といった沢山のイベントを開催してきた実績がありますが、そういったイベントはスタート当初から考えていたのでしょうか?

いや、実はそうじゃなくて。おかって市場が出来てから、高崎の人たちに「富岡に遊びに来てよ」なんて声をかけるんだけど、皆んなからは『なんで富岡に?』『富岡なんて行っても、つまんないよ』って言われちゃって、それが悔しくてね(笑)

どうにかして呼ぼうと思って始めたのが最初の動楽市(※)のスタートなんです。

※おかって市場で年二回開催される大規模なイベント。数多くの有名店舗が参加しており、今では店舗側から出店したい!とのオファーが絶えないイベントになっている。

—— (笑)そんなきっかけからイベントが始まったんですね!じゃあ、今は“動楽市”と“月一マルシェ”の2つが中心ですか?

4月には「春のパンまつり」ってのがあって、他には「花と緑のマルシェ」。今年からは「Vintage Festival Tomioka」っていう、古道具屋さん・アンティーク雑貨・古本・古着を集めた蚤の市の様なイベントも始まります。他にも、店舗の2階を使った展示企画とか・・

—— そんなにやってるんですか!やっぱり、その根底には「沢山の人に来て欲しい」という、想いがあってのことなんですかね?

実は「今回のイベントに××人が来てくれた」といった集客は、あんまり意識はしていなくて。来場数もちゃんと数えてないから正確な数字は、実際よく分かんないんだけど。。

それより、来た人たちが楽しんでくれているのを端から見ているのが楽しくて、今はもうそれだけだね(笑)

イベントも何人かのスタッフで回しているんだけど『自分たちが行ってみたくなる』とか『こんなことがあったら良いよね』っていう世界観をすごく大事にしてて、それを目指して、カタチにしてきている感じかな。だから、“数”は意識していないの。

—— 個性豊かな出展者は、毎回募集をかけて集めているんですか?

いや、今は募集はしていなくて、出展してくれた店舗からの紹介で集めています。

勿論、紹介してもらってから、ちゃんと会う様にはしているんだけど。そこで大事にしているのは、その「人」で、やっぱり「人」が良いと、それが商品の“味”や“モノづくり”に出るよね。

そこで紹介して貰う人も、やっぱり似た価値観を持っているし、そうやって似た価値観を共有している人たちの横の繋がりから、現在は出展者さんを集めています。そこには、お店の大小といった規模も、経験の有無も関係ないんだよ。

継続することで感じる「街」の変化

—— 10年間やり続けてきて、高橋さん自身が感じている街の変化ってありますか?

一番の変化は、余所から(人が)来てくれる様になったことだね。

街中の人たちには、どうだろう・・刺激しているつもりなんだけど、受けてくれているかなあ。。ちょっと分からないね(笑)

でもイベントを通じて、富岡でお店初めてくれた人や、工房を開いてくれた木工作家さんがいたり、動楽市に出展したての時は小さなブランドだったけど、今では海外でも活躍するブランドになったりと、もう70回以上もイベントをしてきたので、そういう変化は少しずつ起きてるね。

—— 高橋さん自身は、それを意図してやってきたのでしょうか?

(富岡に移住して欲しい)とかは意識してなかったね。クラフト作家さんを集めたイベントをやった時は「一生懸命やっている人たちの発表の場をつくりたかった」っていう想いでやってたから。結果的にキッカケにはなったのかもしれないけど、そこから先は別のチカラも働いてたのもあるんじゃないかな(笑)

でも最近は、おかって市場に「空き家ないですか?」「空き家があるんだけど、どうにか出来ない?」って相談や情報が来ることが少しずつ増えていて、そのマッチングを実は5件くらいやってるんですよ。

—— へえ、すごい!それはもう立派な実績ですね。

ぼくらは不動産屋じゃないから表立ってやるかは別として、

将来的には、そういった情報も集まる場所にしたいとは思いますね。

—— 意図せずに、結果としてそうなった訳ですが、おかって市場をキッカケに街に変化が生まれていくことは、どう思っています?「よっしゃ!」って感じですかね?

ほら、僕は割と感情を表に出さないタイプだから。(いいじゃん、いいじゃん)と思って見てますよ(笑)

これまでの「おかって市場」と、これからの「おかって市場」

—— これまでの10年間。「おかって市場」という場所やイベントを通じて、色んな人に“きっかけ”を提供してこれたモチベーションは何だったのでしょうか?

あーなんだろうなあ・・僕はもう65歳になるんだけど。

とにかく「若い人を応援したい」ってのがあって、「お金はないけど、こういうことやりたい」っていう人たちを応援してあげるのが楽しくてね。元々、建築や内装の仕事をしていたのもあって、一緒に考えてあげることや、実際にカタチになっていくのを、やるのも・見るのも楽しくてやってこれた感じかなあ。

—— 10年という一つの時間的な区切りも迎えて、これから、また次のステージに向かっていくのかと思いますが、今後の抱負などもあれば教えて下さい!

これまでのおかって市場は、建物の構造上、これまではちょっと閉鎖的な見え方をしていたんだけど、今改修している場所に移転が出来れば、よりオープンな見え方をする場所に変わっていけると思います。

そこでは今あるスーパーに加えて、キッチンスタジオもつけたりするので、外から見て常に人がいて、何かしら動いている様な場所に変われたら、これまで関わってこなかった人たちにも足を運んでもらって、より一層(街に)刺激を与えていける場所に変われるかなって。

そしたら目の前にある富岡市役所や、製糸場とも連携しながら、また面白いことをやっていこうかなって思ってます。本当は歳も歳だから、もうあんまり色々やりたくないんだけどね(笑)

あとは、富岡だけじゃなくて、周辺の下仁田や甘楽町にも良いところは沢山あって、そういった周辺エリアを含めた群馬県「西毛地区」単位でも盛り上げていける様なことも、これからはやっていけたらなって考えてます。

—— またこれからの10年で、おかって市場を起点に富岡や西毛地区が、どう変わっていくのか楽しみですね!直近で、遊びに行けるイベントはありますか?

4月7日(日)に春のパンまつり「パンとお菓子とコーヒーと」を開催します。

おかって市場と富岡市役所の広場を使って、総勢30軒近い数のパン屋とお菓子屋が集まってくれるイベントとして、これも毎年続けているんだよ。

5月には「動楽市」と、新しく始まる「Vintage Festival Tomioka」の開催も控えているので、是非この機会に富岡に遊びに来てくれたら嬉しいなあ。